土淵村にての日記
水野葉舟

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)、雪《ゆき》の平《たいら》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ぽっ」に傍点]
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     一

 S君の家に着いた時には、もう夜がすっかり更けていた。
 途中で寄り道をして、そこですっかり話し込んでしまったので、一里余りの道は闇の中をたどって来た。闇の中にひろびろと開けた、雪《ゆき》の平《たいら》を通って来た。闇と言ってもぽっ[#「ぽっ」に傍点]とどこか白々として、その広い平がかすかに見透かされる。そして寒い風が正面から吹きつける中を歩いて来たのだ。
 歩いて来た道は、川に沿っていた。雪の中に黒く見える流れだった。水の音がただ絶えず気疎《けうと》く耳についた。雪の中をオヴァシューズでS君の家の裏口の方から庭にまわった時にゴム底が凍った凸凹になっている雪の上を歩くたびに、ギュッ、ギユッと音をしてすべる。そして疲れた足には、それが言いようもなく重く思われた。
 で、雪のあるうち、近道だと言って、畑の中を直線にふみ付けた、道から、家の裏口に出た。家に着いたと言
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