われた時には、ほっとした。自分は雪明りで、時計を見ようとしたが見えなかった。S君が傍《そば》からマッチをすってくれたので、もう十一時四十幾分になっているのを知った。
「もう遅いから、寝ているだろう。はいって起こさねばなるまい。」とS君は言う。
「着く早々、君の家を騒がすわけだね。」
「ナーニ」
と言って、二人はそのまま裏口から庭にまわった。すると、戸の端が少し開いていて、そこから火が漏れて見える。S君は丈の高いからだを先に立てて、穿いた草履のままで、縁に上って行った。自分もつづいて上った。
その戸を開けると、そこは広い座敷で、隈に炬燵《こたつ》がある。中にはいって、二人は襟巻をはずしたり外套を脱いだり[#「脱いだり」は底本では「脱いたり」]した。寒い寒いと思って歩いて来たが、からだは汗でぬらぬらしている。
そこへ、
「帰ったか?」と聞き馴れない言葉で言って、次の室から人が出て来た。五十を越した老女で、頭を布で巻いている。
S君が途中で遅くなったことを二言三言言う。と、私と対《むか》い合った。で、自分はこの人がS君のマザーだと思ったので、
「はじめまして、しばらくのうちいろいろ御厄
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