介になります。」と、自分は窮屈なズボンの膝を折って、そこへ手をついた。汗でからだがニチャ、ニチャするのが気になる。
「……」と、その老女も何か言ったが、自分にはその言葉の意味が分らなかった。それで、工合いの悪い顔をして、その人の顔を見ると、むこうでも、何かふに落ちぬようで自分の顔を見た。
自分はまた言葉がよく通じない、と思って、口を噤《つぐ》んだ。そして、その儘立って、カバンから着物を出した。
こんどの旅では、花巻に泊った晩から、幾度も、この言葉が通じないので困らされた。
着物を着換えてしまって、S君と向い合って炬燵にはいった。次第に落ちついてくると、何と言いようのない夜更けのしずけさが感じられる。室の中が見廻わされる。寒さが襟元からひしひしと沁み込んでくる。
広い室に、小さいランプがともされているので、すみずみが薄暗い。障子も、柱も黒く、天井がばかに高い。寺の中にでもはいったような心持ちがする。
炬燵の傍には古風な棚が置いてある。それに四五冊、S君の手馴れた本が立ててあった。その傍に自分に当てて来た、手紙や雑誌も十五六置いてあった。自分が、所々《しょしょ》を歩るいて[#「歩
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