そうな顔をして、じっと見ている。思いがけないような、物珍らしそうな、恐れているような、目だ。……そして目でじっと見ながら何か小声で話している。
室は板敷の上に筵《むしろ》が敷いてある。正面の舞台には毒々しい更紗《さらさ》模様《もよう》の幕が下りている。
自分達ははいると、雪でぬれた足袋や、靴下をぬいでいると、前の方に火鉢を取り廻わしていた女達が火鉢の傍《わき》を退《の》いて、S君に座をすすめた。そこに女達の中に交って座を占めた。
九時近くなる頃まで、舞台の幕は下りたままだった。自分はひそかに退屈してしまった。
そのうちに見物が次第に一杯になって来た。牛のような頑丈なからだをした男達がうしろの方にずっと並んだ。
長々と、今夜の人形、新しく改良したものであると言う前口上があって、やがて幕が明いた。人形はやはり古く汚れている。土の上に塗った胡粉《ごふん》の色が冷く白い。それに死んだ人のような指をした人形が目を一つところに据えて踊り出した。自分はこれが子供の時から恐ろしく思われるものの一つだ。久しぶりでまたそれを見たのだ。
それで、目をそらして見物の方を見ると、傍にいる女達が小さな
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