、よほど驚いているらしい。
「本当に来てたかって奴があるもんか。」自分は従兄の驚いたのが得意に思えたので、わざと落ちついて言った。自分と従兄は一つ違いで、兄弟とも、友人ともいうような仲だ。
 しばらく二人で話し合ったが、従兄は午までに学校に行かねばならぬと言って出て行った。
 で、自分は、そのあとで下女を呼んで、今夜は従兄と二人で食事をするから、何か特別の料理をと言いつけた。すると、しばらくして、例の男が入って来て、例の人を覗うような目付きをして、
「今夜、何かお酒宴《さかもり》でもなさりますか?」と聞く。
「酒宴ではない。従兄とは久し振りだから一緒にものを食おうと思ってさ。」
「ハハそうですか、ハッ。じや私がよく見つくろいます。」
「…………」
 自分は嫌な顔をして型だけにうなずいた。

 その晩、従兄がくるのを待って、二人は少しばかり酒を飲んだ。が、その席にともすると、例の男がはいって来て、じつと尻を落ちつけて、自分達の話に口を入れる。自分はとうとう少し二人きりの話がしたいからと言って、その男をことわった。その晩の話に従兄は二三日してこの町で学術演説会があるので、従兄も一場の演説を
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