、知らぬ顔をしてやった。と、また黙って、まじまじ人の顔を見ていたが、やがて、急き立てるように、
「使いを出すなら、早く出しませんと、人がいなくなります。」と言う。
「よそう!」自分は言い切った。
「よしますか?」と、その男は自分の心持ちを覗おうとするように言った。
 自分は堅く口をつぐんだ。そして心には充ち充ちた不愉快が、自然と人に逢えぬと言ううら悲しい心持ちに変わって行くのを覚えた。
 で、無聊な、不愉快なその日も暮れた。

     四

 三日目の朝、自分は起きて、顔を洗って室に入ってくると、平生のように髪を分けた。で、今日も油を頭につけたが、あとで、ふと、その壜を取って見ると、油が非常に少くなっていた。
「しまった。これは余程、倹約して使っても途中で足りなくなるぞ。困ったな。頭をぼうぼうさせて東京に帰るのか。」と思った。これから途中では、ちょっとこの油を買うことができないらしく思われると、しばらく、自分の非常に心持ちよく思っている楽しみに遠ざからねばならぬと考えた。
 で、何となく物足りなく思っていると、さっと唐紙を開けて従兄が入って来た。
「何だ、作さん本当に来てたのか?」と
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