いる。と、言うよりも、この町はその裾に小さく一かたまりになって家が建っているようだ。
 町幅は広く、町は一直線に東の山の方に突きあたって北にまがっている。昨夜、乗って来たと同じ馬車が馬をはずして、薄暗い軒の深い家の軒前《のきさき》に置いてある。寒い国の習いで、家の軒が深く、陰気なしん[#「しん」に傍点]とした町だ。自分はそのなかを歩いて、二三軒の小間物店らしいところに寄って、この町近傍の景色をうつした絵葉書をさがした。
 けれど、そんなものは一枚もなく、かえって東京で出来た、西洋の名画を複写した絵葉書などがあった。
 かと思うと、二三年前に東京であった博覧会の錦絵などもある。かすかに賑やかな東京の呼吸がこの錦絵に通っているようだ。
 自分は一順町をまわって異様な感じがした。教えられた従兄の下宿を捜して、置き手紙をして帰えって来た。

     三

 つぎの朝までも従兄は帰えらなかった。自分はつくづく前から知らせなかったのを悔いて、また使いを立てようかと思い迷った。
 ところへ、その男が入って来た。
「どうします。」と、いきなり言った。
「さ、」と答えたが、自分は不快で堪らなかったから
前へ 次へ
全13ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 葉舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング