には長いあいだの習慣だ。柔かなボケーの香はもう自分の香のように親しい。
 で、髪をチャンと分けると、自分は立って、道具一切を床の間の、違い棚の上に置いた。そして元の座に帰えると、その男は坐ったまま一心に自分を見ていた。
 その男は物珍らしそうにじっと自分の顔を見ていた。自分は、それが嫌でたまらなく思えたので、露わに眉を曇らして見せた。そして、火鉢の傍にあった茶盆を引き寄せて茶を入れて飲みながら、
「じゃ、早く聞いて来て貰おう。」追いやるように言った。すると、
「へえ、」と、相図のように頭を下げたが、まだ立とうともせず、手を伸ばして茶盆の中に伏せてある茶碗を起こして、自分がついだ茶の残りをついだ。それを平気な顔をして一口飲むとそそくさと立って行った。自分はそのあとで舌打ちをした。
 しばらくすると、朝飯の膳が運ばれて、自分が箸をとっていると、その男がまた入って来た。そして咳を一つして火鉢の向こうに坐った。自分はチラと振り返えったが、黙って食事をしていた。
 その男も黙って自分を見ていた。やがて、自分が食事をすませて、からだを振り向けると自分を見ていた目をつっと天井に反らせた。自分はからだ
前へ 次へ
全13ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 葉舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング