鼠のような小さい馬だった。
馭者は二人で、手綱をとって引き起こそうとした。一人の方は息を切らして働いている。私達の乗った方のは、口きたなく罵りながら、それに手伝っていた。
馬は鼻を開いて苦しそうな息をしながら、いくども泥を蹴って起きようとした。瘠せた骨の見える腹を力なく波打たせては、全身に力を入れるけれど、どうしても起きなおることができない。そして又ぐったりと泥の上に寝てしもう。
馭者はその脊に靴をあてて、力を入れた。枯れた木を打つような音がする。私はそれを見ながら、このまま、この馬は死ぬだろうと思った。
いよいよ馬が起きないので馬車の柄ははずされた。そして引き起こされた。
半身泥まみれになった馬は、腹に波を打たせながら、その泥の中に立った。
「この馬に引かせるのか?」と立って見ていた客の一人が言った。
「仕方がねぇやね。」と、馭者は振り返った。
「この山の中で、どうなるもんで。」と言って馬を泥の中から引き出した。
「歩く! しまいまで歩く!」と言って丈の高い商人風の客は大きい信玄袋《しんげんぶくろ》をさげた。
私はそこに立っていた同じ車の人と一緒に、引き返して来た。そして
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