黄昏
水野葉舟
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)炬燵《こたつ》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|刻《こく》ずつに
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)好奇心[#「好奇心」は底本では「好寄心」]は
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佐々木君が馬車に乗ってしまうのを見送って、二階にあがって来た。けさ遠野から馬車に乗った人たちが、二組三組に分かれてほうぼうの室の炬燵《こたつ》にあたっている。時計を見ると、もう三時少し過ぎた。
一人ぼつりと二階の自分の室に入ってくると、出たままになっている炬燵の口から、また足を入れた。今日は寒い薄日のさした日だ。からだを少し横にして、天井を見ていたが、親しみがたく、落ちつかぬ。ぼやっとした感じがこのからだを取りかこんでいる。寒さが沁みわたる。もう三月の二十九日。東京ならば桜も咲こうという頃なのだ。
ここは遠野町と、花巻町との中継ぎの村で宮守というところ。両方から出る馬車が、この村まで来て、客を乗せ換えて引き返して行くところである。
私はちょうど一と月ばかり前、雪がもっと深い時分にここを通って
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