日の入る方に向いて……。
一町も行くと、第二の馬車に逢った。
まもなく、猿ヶ石川の岸にかかった。
と、後から、
「オーイ、オーイ」と呼ぶ声がする。私達の馭者はふと振り返ったが、急に馬車を止めた。
そして、
「チョッ! 業突張《ごうつくばり》!」と言いながら、車から下りた。あとにいた客は垂幕《たれ》を上げると、
「馬がたおれた。」と言った。車の中では顔を見合わせた。一様に誰にも不安な感が頭を走った。
「どうするんだ。これでいつ花巻に着けるんだ。」と一人が呟いた。
私は立って、その入口の人を越して外に出た。地に降りると、まずあたりを見た。山になったので、勾配のやや強い、上り坂の中程で、ずっと遠くの方にある山が相接して立っている。そのあいだは餘程深い谷であるらしい。山には薄い靄が、かかっている。
馬は二十間ばかり隔てたところに、道の一箇所でひどくぬかるみがする、その泥の中に倒れていた。馬車は大分傾いてわずかに保っている。乗客は降りて道の一方に困って立っていた。
「さっき、ひどく揺れた、あすこだな。」と思いながら、私はそこに歩み寄った。
馬は泥の中につまずいて倒れていた。瘠せた
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