馬車に乗った。
 やがて、私達の馬車がそろそろと動き出すと、そのあとから六人の……後の馬車の客がなにかひどく興奮したらしく、元気よく歩いて来た。商人は足駄をはいていた。そのほかには老婆もいた。
「重ね、重ね、今日は、運の悪い日だ。」と車の中で一人が言った。

 やがて川が見えた。瀬の音が低い下の方で聞こえる。
 と、ガラガラと音をさせていま倒れた馬車が駆けて追いついて来た。馭者が馬の口を取っている。今、倒れて死ぬのかと思った馬が、それに引かれて駆けて来た。
「や、乗れるのか?」と、私の車に沿って歩いていた商人は言って立ちどまった。
「さ、この馬は弱っとるのだから、半分ずつ乗って、三人は歩いてやっとくんなさい。」と馭者は言った。
「おれは歩く。」そのなかにいた一人の青年は言って、勇ましく歩き出した。
 で、後を見ると、いつの間にか、その馬車の客はまた大分乗ってしまった。その青年も馬車について駆けていたが、やはりあとから飛び乗っていた。
 半時間もたつと、馬車の中で、その出来事を忘れたように、世間話をはじめ、やがて居眠りをはじめた。

 猿ヶ石川に沿った道は長い。やがて、高い山の中腹からし
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