聞いていると、不意に馬車が動き出した。中の者はそれに驚いて見ると、馬は退屈そうに、ごとりごとり歩き出した。うしろに大きい車を引きずっているのもかまわぬと言った態《ふう》で、首を長く伸して道ばたの草を喰いはじめた。それでからだを移すたびに、車はかたりと動く。
二人の喧嘩はまだ止まぬ。また馬車が動いた拍子に、輪が道のこわれかかったところにはいって車が傾いた。
「ワッ!」と中から叫んで立ち上ろうとしたものがある。
と同時に、一人が笑い出した。
「危い、危い、一体客をどうするんだ。」と一人が言った。
「困るな。自分達の喧嘩はあとにしろ!」と言って一人が笑った。
私は黙っていたが、この時に、
「これではうかうかすると今夜花巻に着けるかどうか分らないでしょう? どうです。皆でその二銭だけ奮発してすぐ出して貰っては……」と言って、車の中を見廻わした。すると、誰れも口を噤《つぐ》んでしまって知らぬ顔をする。私はカッとなった。で、自分一人でその金を払おうかと思ったが、この田舎漢《いなかもの》の卑吝《けち》な奴達のお先に使われるような気がして止した。
で、そのまま傍を向いて、窓からそとを見た。す
前へ
次へ
全12ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 葉舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング