たの馭者は渋い顔をしてそれを受けた。
「一台か?」あとの馬車からは不平らしい声をかけた。
「あとはすぐくる。」とそっけなく言って、その馭者は馬車を止めた。こっちでも、
「では、さきの方から乗り換えるのか?」と言って馬車を止めた。私達は入口の方の人から順々に降りて花巻の方の馬車に乗った。馭者は荷物を交換して、積み込み、馬の方向《むき》を変えた。私達はこれでやっと安心したと思いながら、あたりを見ていると、あとの方から、
「何だと!」と言う声がした。
「何でもない。五銭が当り前じゃ。」と、ふとった男の声がする。車の中では耳をそばたてた。
「五銭? 一人前七銭宛くれていい、お前達がこねぇから、客が困るっていうんだ。それでわざわざ車を出して来たんじゃないか。」と、のどを嗄《から》すような声で一人が言う。
「馬鹿こけ。五銭でいやなら一文もやらぬ。」
「何だと?」
「何だと。」
「一体、お前達は……」と、一方がここまで出て来たことを繰り返して罵《ののし》り立てた。それに向って、花巻から来た馭者はどうしてもその二銭を出さぬと言って罵る。
ガタリ……と車の中ではあとの方で二人の喧嘩するのに耳を立てて
前へ
次へ
全12ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 葉舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング