は垂幕を上げた。まだところどころ雪が解け残っている。
馬車の中では、花巻からの馬車があまり遅いので、その馬車に逢う所まで行こうと言うので、遠野の馬車を出したのだ。その上、今日は客が非常に多いから、電話でさらに一台呼びよせた、と話している。外は雪で押されていた草が黄色く湿って、それに薄日が当っている。永く水ずいた跡のような土は、なかば乾いてにぶい濁った色を見せている。眠り入った後の、だるそうな周囲《まわり》のうちに、馬車がただ踊って、音をたてて行く。
私は、不安心なせわしい心持ちでもって、この景色を見ていた。けさから馬車に揺られて来た疲労《つかれ》が現に浮んで来て、張り合いのない、眠いような心持ちになる。目は無意味に下の道の土の上を見詰めていた。
道は宮守の村をはなれてから、一里も来た。片側はゆるい山の裾、片側は山を隔ててまるい低い雑木の立った山が見える。そこへくると、道の向うから、ラッパの鳴る音が聞こえた。馭者台の上で、
「来た!」と言った。やがて両方から近づくとこちらから、
「遅かったな。」と声をかけた。花巻の方の馭者は遠野に行く時に乗った覚えのある男だ。
「あア……」と、かな
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