みしめてのぼりゆく。尾根に出ても陰鬱な空、近山のほかは見えず、渓間《たにま》の黒松は雪をいただいて、足下ちかくならんでいる。M君がお正月らしいという。足あとさして、「誰か登った人があるね」といえば「この上で、いま木を切っているから、その杣《そま》でしょう」と、案内者が答える。セイシン坂すぎ、山辺みちに会する事二度、尾根をわたり、谷間に網はって、小鳥とる男にあった。すっぽりと頬かぶり、腕ぐみして、つくねんと立っていたその男が、私をみて「藁《わら》をかけねえでは、つめたかろう」という。M君も、私も、草鞋のほかに、足に藁をつけていなかったのだ。案内者がもう半分道きたろうかと尋ねると、まだだと答える。おしかぶさるような空を、私たちは望もなく進んでいった。雪の山。一時もすぎた、二時も過ぎた。夜に入っては、これまでの路に少し危くおもわれる所もあった。案内者は峠の小舎《こや》にたしかに泊れるといい、M君もとまってよさそうだったが、見わたす空に明日のよき兆《さが》しめすものは、露ないので、私はかえる方がよいと言い出した。三時、私たちはもと来し方へと引きかえした。賽《さい》の河原《かわら》で蜜柑《みかん
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