ゆけば、畑に桑の枝は束ねられ、田の面《も》の薄氷《うすごお》れるに子どもはスケートをしている。藁鞋《わらぐつ》はいてゆく里人を車窓より見まもりゆくうちに鉢伏《はちぶせ》山右手に現れ、桔梗《ききょう》が原に落葉松《からまつ》寒げに立っていた。
 松本で小さい馬車に乗りかえた私たちは、曇った空の下を浅間へ、十二時ごろ西石川の二階に通り、一風呂浴びて休むうちに雨、それが雪に変って、高原の寒さが身にこたえる。信州にはじめて入ったM君は、炬燵櫓《こたつやぐら》の上に広盆しいて、焜炉《こんろ》のせての鳥鍋をめずらしがっていた。

    一たび武石峠へ

 雪もよいの空、それに元日のお雑煮《ぞうに》おそく、十一時すぎにやっと宿を出た。一路ただ東へと。案内者は去年の雪の多かった事、腰まであって、あがきがとれず、美術学校の人の供をして、朝の十時に宿をたったが武石峠へいったら、とっぷり日がくれ、小屋に一泊したというような事など話す。宿でも八、九時間の道程といったれど、険なりとも思われぬ往復六里弱の道、何ほどの事かあらんと足をあげる。沢をいって、浅間のものの水汲むというあたりに外套《がいとう》をぬぎ、雪ふ
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