、兼ねて、
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わかるれど、あひも惜しまぬもゝしきを、見ざらむことの なにか悲しき(伊勢)
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が、其大きな導きになつてゐることゝ、推察してもいゝやうだ。
併し又、一方「死馬の骨を買ひし者あるを聞かずや」といきり立つた清少納言と同様「我も昔は」とも言ふべき形を、含んでゐるとも見える。尚其外にも、棄老民譚の王朝の一形式とも言ふべき、蟻通し明神(枕冊子)風の「老いの智慧」の要素をも持つてゐる。「月には上る、長安百尺の楼」と訓じ聞かせた大江朝綱の家の姥(今昔物語・江談抄)などの流も、引いて居る様子である。
武家が都に入りまじる様になつた王朝末に、殊に目について来たのは「賤《シヅ》のみやび」に関する様々の物語であるが、此が此小町の物語には、融合して居る。併し、其で此物語の出来た時代をきめる事は出来ぬ。唯其何々院と、大局に関係のない年代づけをしたがるのは、口の上の物語よりも、筆拍子に乗つて出来た物語だからでもあるが、要するに、此物語の出来た時代の影響を、脱することの出来ぬのを示してゐる。
桜町中納言は、泰山府君の桜の命乞ひをした物語も残した人で、謡曲にも
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