、わたつみの国[#「わたつみの国」に傍線]と言ふ、常世《トコヨ》を観ずる様になつて来た。いろこの宮[#「いろこの宮」に傍線]を、さながら常世《トコヨ》と考へることは、やはり後の事であるらしい。
鰭《ハタ》の広物《ヒロモノ》・鰭《ハタ》の狭物《サモノ》・沖の藻葉・辺《ヘ》の藻葉、尽しても尽きぬわたつみの国[#「わたつみの国」に傍線]は、常世と言ふにふさはしい富みの国土である。曾ては、妣《ハヽ》が国として、恋慕の思ひをよせた此国は、現実の悦楽に満ちた楽土として、見かはすばかりに変つて了うた。けれども、ほをりの命[#「ほをりの命」に傍線]の様な、たま/\択ばれた人ばかりに行かれて、凡人には、依然たる常世の国として懸つて居た。富みの国であるが故に、貧窮《マチ》を司る事も出来たのが、わたつみの神[#「わたつみの神」に傍線]の威力であつた。ほをりの命[#「ほをりの命」に傍線]の授つて来られたのは、汐の満ち干る如意宝珠ばかりでなく、おのが敵を貧窮ならしめ、失敗せしめる呪咀の力であつた。
扨《さて》又、あめのひぼこ[#「あめのひぼこ」に傍線]の齎《もたら》した八種《ヤクサ》の神宝を惜しみ護つた出石《イ
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