ヅシ》人の妣《ハヽ》が国は、新羅ではなくて、南方支那であつたことは、今では、討論が終結した。其|出石《イヅシ》人の一人で国の名を負うたたぢまもり[#「たぢまもり」に傍線]の、時じくの香《カグ》の木実《コノミ》を取り来よとの仰せで渡つたのは、橘実る妣《ハヽ》が国なる南の支那であつた。出石《イヅシ》人の為の妣が国は、大和人には常世の国[#「常世の国」に傍線]と感ぜられて居たのである。此処に心とまることは、此常世が、なり物の富みの国であつたばかりでなく、唯一点だが、後の浦島[#(ノ)]子[#「浦島[#(ノ)]子」に傍線]の物語と似通ふ筋のあることである。八縵《ヤカゲ》・八矛《ヤホコ》のかぐのこのみ[#「かぐのこのみ」に傍線]を持つて、常世から帰りついた時は、既に天子崩御の後であつた。「命《オホ》せの木の実を取つて、只今参上」と復奏した儘《まま》、御陵の前に哭き死んだと言ふ件は、常世と、われ/\の国との間で、時間の目安が違うて居たと言ふ考へが、裏に姿をちらつかせて居る様である。極々内端に見積つても、右の話から、此だけの事は、引き出すことが出来る。地上の距離遥かな処に、常世の国[#「常世の国」に
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