びに、日高見《ヒタカミ》の国を考へたのも、此処に越え難いみちのおく[#「みちのおく」に傍線]との境があつて、空想を煽り立てたからであつた。常世《トコヨ》を海の外と考へる方が、昔びとの思想だとする人の多からうと言ふことは、私にも想像が出来る。併し今の処、左袒多かるべき此方に、説を向けることが出来ぬ。
書物の丁づけ通りに、歴史が開展して来たものと信じて居る方々には、初めから向かぬお話をして居るのである。常世《トコヨ》と言ふ語の、記・紀などの古書に出た順序を、直様《すぐさま》意義分化の順序だ、との早合点に固執して貰うて居ては、甚だお話がしにくいのである。ともあれ、海のあなたに、常世《トコヨ》の国を考へる様になつてからの新しい民譚が、古い人々の上にかけられて居ることが多いのだ、とさう思ふのである。海のあなたの大陸は蒲葵《アヂマサ》の葉や、椰子の実を波うち際に見た位では、空想出来なかつたであらう。其だから、大后一族の妣《ハヽ》が国の実在さへ信じることが出来ないで、神の祟りを受けられた帝は、古物語を忘れられた新人として、此例からも、呪はれなされた訣になる。彼らは、もつと手近い海阪《ウナザカ》の末に
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