のみこと」に傍線]・たまよりひめ[#「たまよりひめ」に傍線]の還りいます国なるからの名と言ふのは、世々の語部の解釈で、誠は、かの本つ国に関する万人共通の憧れ心をこめた語なのであつた。
而も、其国土を、父の国と喚ばなかつたには、訣《わけ》があると思ふ。第一の想像は、母権時代の俤《おもかげ》を見せて居るものと見る。即、母の家に別れて来た若者たちの、此島国を北へ/\移つて行くに連れて、愈《いよいよ》強くなつて来た懐郷心とするのである。併し今では、第二の想像の方を、力強く考へて居る。其は、異族結婚(えきぞがみい)によく見る悲劇風な結末が、若い心に強く印象した為に、其母の帰つた異族の村を思ひやる心から出たもの、と見るのである。かう言つた離縁を目に見た多くの人々の経験の積み重ねは、どうしても行かれぬ国に、値《あ》ひ難い母の名を冠らせるのは、当然である。
二
民族の違うた遠い村は、譬ひ、母の国であつても、生活条件を一つにして居るものと考へなかつたのが、大昔の人心であらう。さればこそ、とよたまひめ[#「とよたまひめ」に傍線]の「ことゞわたし」にも、いはながひめ[#「いはながひめ」に傍線]
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