たどの島々も皆、異国・異郷ではないのである。唯《ただ》、まる/\の夢語りの国土は、勿論の事であるが、現実の国であつても、空想の緯《ヌキ》糸の織り交ぜてある場合には、異国・異郷の名で、喚んでさし支へがないのである。
われ/\の祖々が持つて居た二元様の世界観は、あまり飽気なく、吾々の代に霧散した。夢多く見た人々の魂をあくがらした国々の記録を作つて、見はてぬ夢の跡を逐ふのも、一つは末の世のわれ/\が、亡き祖々への心づくしである。
心身共に、あらゆる制約で縛られて居る人間の、せめて一歩でも寛ぎたい、一あがきのゆとりでも開きたい、と言ふ解脱に対する※[#「りっしんべん+淌のつくり」、第3水準1−84−54]※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]が、芸術の動機の一つだとすれば、異国・異郷に焦るゝ心持ちと似すぎる程に似て居る。過ぎ難い世を、少しでも善くしようと言ふのは、宗教や道徳の為事《しごと》であつても、凡人の浄土は、今少し手近な処になければならなかつた。
われ/\の祖《オヤ》たちの、此の国に移り住んだ大昔は、其を聴きついだ語部《カタリベ》の物語の上でも、やはり大昔の出来事として語ら
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