[#(ノ)]呼坂《ヨビサカ》・筑紫の荒ぶる神・姫社《ヒメコソ》の神などの、人|殺《ト》る者は到る処の山中に、小さな常夜の国を構へて居たことゝ察せられる。国栖・佐伯・土蜘蛛などは、山深くのみひき籠つて居たのではなかつた。炊ぎの煙の立ち靡く里の向つ丘《ヲ》にすら住んで居た。まきもくの穴師《アナシ》の山びとも、空想の仙人や、山賤《ヤマガツ》ではなく、正真正銘山|蘰《カヅラ》して祭りの場《ニハ》に臨んだ謂はゞ今の世の山男の先祖に当る人々を斥《サ》したのだ、と柳田国男先生の言はれたのは、動かない。其山人の大概は、隘勇線を要せぬ熟蕃たちであつた。寧、愛敬ある異風の民と見た。国栖・隼人の大嘗会に与り申すのも、遠皇祖《トホツスメロギ》の種族展覧の興を催させ奉る為ではなかつた。彼らの異様な余興に、神人共に、異郷趣味を味はふ為であつた。
ほんとうに、祖々を怖ぢさせた常夜は、比良坂の下に底知れぬよみの国[#「よみの国」に傍線]であり、ねのかたす国[#「ねのかたす国」に傍線]であつた。いざなぎの命[#「いざなぎの命」に傍線]の据ゑられた千引きの岩も、底の国への道を中絶えにすることが出来なかつた。いざなぎの命[
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