がられて居たことがある、と言ひ換へてもさし支へはない様である。みけぬの命[#「みけぬの命」に傍線]の常世は、別にわたつみの宮[#「わたつみの宮」に傍線]とも思はれぬ。死の国の又の名と考へても、よい様である。
大倭の朝廷《ミカド》の語部は、征服の物語に富んで居る。いたましい負け戦の記憶などは、光輝ある後日《ゴニチ》譚に先立つものゝ外は、伝つて居ない。出雲・出石その他の語部も、あらた代の光りに逢うて、暗い、鬱陶しい陰を祓ひ捨て、裏ぎるものとては、物語の筋にさへ見えなくなつた。天語《アマガタリ》に習合せられる為には、つみ捨てられた国語《クニガタリ》の辞《コト》の葉《ハ》の腐葉《イサハ》が、可なりにあつたはずである。
されど、祖々の世々の跡には、異族に対する恐怖の色あひが、極めて少いわけである。えみし[#「えみし」に傍線]も、みしはせ[#「みしはせ」に傍線]も、遠い境で騒いで居るばかりであつた。時には、一人ぼつちで出かけて脅す神はあつても、大抵は、此方から出向かねば、姿も見せないのであつた。さはつて、神の祟りを見られたのは、葛城[#(ノ)]一言主《ヒトコトヌシ》における泊瀬天皇の歌である。手児
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