其が、第一義かどうかは問題であるが、常住なる齢と言ふ民間語原説が、祖々《オヤ/\》の頭に浮んで来た時代に、長寿の国[#「長寿の国」に傍線]の聯想が絡みついたので、富みの国とのみ考へた時代が今一層古くはあるまいか。
飛鳥・藤原の万葉《マンネフ》びとの心に、まづ具体的になつたのは、仏道よりも陰陽五行説である。幻術者《マボロシ》の信仰である。常世と、長寿と結びついたのは、実は此頃である。記・紀・万葉に、老人・長寿・永久性など言ふ意義分化を見せて居るのも、やはり、其物語の固定が、此間にあつたことを示すのである。浦島[#(ノ)]子[#「浦島[#(ノ)]子」に傍線]も、雄略朝などのつがもない昔人でなく、実はやはり、初期万葉びとの空想が、此迄あつたわたつみの国[#「わたつみの国」に傍線]の物語に、はなやかな衣を着せたのであらう。「春の日の霞める時に、澄[#(ノ)]江[#(ノ)]岸に出で居て、釣り舟のとをらふ[#「とをらふ」に傍点]見れば」と言ふ、語部の口うつしの様な、のどかな韻律を持つたあの歌が纏り、民謡として行はれ始めたものと思ふ。燃ゆる火を袋に裹《ツヽ》む幻術者《マボロシ》どものしひ語り[#「し
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