て居た為に、束の間と思うた間に、此世では、家処《イヘドコロ》も、見知りごしの人もなくなる程の巌の蝕む時間が経《タ》つて居たのである。
常世では、時間は固より、空間を測る目安も違うて居た。生活条件を異にしたものと言へば、随分長い共同生活に、可なり観察の行き届いて居るはずの家畜どもの上にすら、年数の繰り方を別にして居る。此とて、猫・犬が言ひ出したことではない。人間が勝手に、さうときめて居るのである。まして、常世の国では、時・空の尺度は、とはうもなく寸の延びたのや、時としては、恐しくつまつたのを使うて居た。齢《ヨ》の長人《ナガビト》を、其処の住民と考へる外に、大きくも、小くも、此土の人間の脊丈と余程違うた人の住みかとも考へたらしい。前にも引き合ひに出たすくなひこなの神[#「すくなひこなの神」に傍線]なども、常世へ行つたと言ふが、実は、蛾《ヒムシ》の皮を全剥《ウツハ》ぎにして衣とし、蘿摩《カヾミ》の莢《サヤ》の船に乗る仲間の矮人《ヒキウド》の居る国に還住したことを斥《サ》すのであらう。
とこよ[#「とこよ」に傍線]なる語の用語例は、富みと長寿との空想から離れては、考へて居られない様である。即、
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