も将然法ではなうて連用法であらうとおもはれる。
   ■終止名詞法
終止法の名詞となるといふことは従来多くの文法家にみとめられてをらぬ。けれども歴史仮字遣に於てすまふ[#「すまふ」に傍線]、かげろふ[#「かげろふ」に傍線]はすまひ[#「すまひ」に傍線]、かげろひ[#「かげろひ」に傍線]の音便であるというてすまう[#「すまう」に傍線]、かげろう[#「かげろう」に傍線]と訂正した人を見ない。本居翁は字音仮字用格に於てあさちふ[#「あさちふ」に傍線]とかかしふ[#「かしふ」に傍線]とかのふ[#「ふ」に傍線]はおふ[#「おふ」に傍線]の略であるというてゐられる。これが連体言であるとしても変である。翁の意はやはり終止言の名詞法をゆるしてゐられたものと見てよからうとおもふ。
全体終止言と連体言とをわけるのは上下二段四変格に応ずるためで、終止と連体とが区別あるのは職掌のちがひによつてある動詞はその形式がかはる、いはゞ形式の上の名にすぎない。形式の上の名であるものを直ちにとつてきて、その形式に於ては何らの区別もないある種の動詞について、これは終止だとか、これは連体だとか、名をことにしてよぶのは変なことである。四段活用の一元から諸種の活用が出来たものとすれば、そのいまだ四段活用ばかりの単純であつた時代には勿論終止と連体との区別がなかつたのである。チヤンバレン氏は古四段活用は終止と連体とが形をことにしてをつたのであるが、動詞全体の傾向が連体言と終止言とをば混同しようとするので、四段活用はすでにこれをわかたない。上下二段言も俗語に於てはこの区別を失うてをる。故にたゞこの一点に於てのみ二段言は四段言よりも古い形を存してをる(日本文法論、孫引)というてゐるけれども、比較的古い現存してゐる文献のうちで、連体言が終止言と同じ形である即ち終止言と連体言とはもと/\区別のあつたものでないといふことを証明してをる事実が多くみいだされる。これらの事実は日本動詞の最古形を示したものではないかも知れぬが、今日われ/\がそのあとをたどることの出来るものゝうちでは最も古いおもかげを存してをるものといはなければならない。(古事記の哭伊佐知流〔連用言はいさちなることは啼伊佐知伎也とあるのをもつてもわかるし、いさちる[#「いさちる」に傍線]は上に何由以《ナニシカモ》とあるから連体言であらうとおもはれる〕は、或は古活用が今日の文献に存してゐる上から見て最も古い形であらうとおもはれる四段活用よりも前の時代のかたみをたゞ一つ古事記の上にとゞめてゐるのではあるまいか。然ながらこれは到底容易に断言せられることではない。)いくたち[#「たち」に「太刀」の注記]、いく弓矢、なぐ矢、しかすがに(さすがに)、ゆきがてぬかも、こよなし(こゆなしであらう)、およすく(おゆは老の意ばかりでなく生長といふ意味があつたかも知れぬとおもはれる形跡がある)などの連体法と見るべきものが、みな終止言とおなじ形をとつてゐるではないか。かういへば或は連体の語尾のる[#「る」に傍線]がこれらの場合には省かつたのであるといふかも知れぬけれども、以上は九牛の一毛たるにすぎないので、古い所ではたくさん見えてゐる。これらを悉くる[#「る」に傍線]が省かつたものであるというたならば、即ちとりもなほさず文法は事実の上に基礎をおくべきもので空想の立場から考へ出すべきものではないから、つまりは一歩をゆづつてる[#「る」に傍線]をもつた形が連体法の古形であつたといふ考をいれるとしても、事実は事実であるからそれを以て古文献にいでたるる[#「る」に傍線]をともなはない終止形と同じ形の連体法をうちくづすことはできない。即ちむしろ連体法の古形は(われ/\が今日に於てさかのぼる事のできる限りの)終止言と同一形式をそなへてをつた。とりもなほさず終止法と連体法とを包含した終止法(?)であつたのだといへるとおもふ。
みたまのふゆ[#「みたまのふゆ」に傍線]といふ語はこのふゆ[#「ふゆ」に傍線]が殖ゆの意であつて、即ちみたまのふゆるであると考へて見てもおちつかぬ。やはりふゆ[#「ふゆ」に傍線]をばふゆる事といはずにふゆ[#「ふゆ」に傍線]というた所に勢が存してをるのである。
雫はしづく[#「しづく」に傍線]の終止法か連体法かは分別することが出来ないけれども、やはりまた終止と連体とをば包含した終止法から出たものであると考へるが適当であるまいか。
古浄瑠璃の四天王高名物語其の他にやまふ[#「やまふ」に傍線]の道とかやまふ[#「やまふ」に傍線]のためにとかいふ語が見えてゐるのは、やはりさういふ所から出たのではあるまいか。といふのは京阪地方の語では連体名詞をば(い[#「い」に傍線]の韻をふくんだ)う[#「う」に傍線]の韻にかへることをさけてゐる(たゞの連用法には
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