のが這入つて来るのだと考へたからで、原の形を変へないで成長するのが、熟する[#「熟する」に傍線]である。熟する[#「熟する」に傍線]といふ語には、大きく成長すると言ふ意も含んで居るのである。
かやうに日本人は、ものゝ発生する姿には、原則として三段の順序があると考へた。外からやつて来るものがあつて、其が或期間ものゝ中に這入つて居り、やがて出現して此世の形をとる。此三段の順序を考へたのである。
       なる[#「なる」に傍線]の信仰から生れた民譚
竹とり物語のかぐや[#「かぐや」に傍線]姫は、此なる[#「なる」に傍線]の、適切な例と見られる。此物語には、なる[#「なる」に傍線]と言ふ語は使つてないが、ないだけに、却つて信用が出来る様に思はれる。
なよ竹のかぐや姫は、山の中の竹の、よ[#「よ」に傍線]――節と節との間の空間――の中にやどつて育つた。其を竹とりの翁が見つけてつれて来る。此物語は、純粋の民間説話でなく、其をとつて平安朝に出来た物語であるから、自然作意がある。姫がどうして、竹のよ[#「よ」に傍線]の中に這入つたかなどゝ言ふことも言はれてはない。天で失敗があつて下界に降り、或期
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