殊の場合に、尊敬してうない神[#「うない神」に傍線]といふ。姉妹神の義である。姉のない時は、妹なり誰なり、家族中の女をうない神[#「うない神」に傍線]と称へて、旅行の平安を祈る風習が、首里・那覇辺にさへ行はれてゐる。うない[#「うない」に傍線]拝《ヲガ》みをして、其頂の髪の毛を乞うて、守り袋に入れて旅立つ。此は全く、巫女の鬘に神秘力を認める考へから出たものである。尤、一村の男をすべて、男神《ヰキイガミ》(おめけい神)と見る例は、語だけならば、久高島の婚礼期にもあつた。国頭郡|安田《アダ》では一年おきに、替り番にうない神[#「うない神」に傍線]を拝み、ゐきい神[#「ゐきい神」に傍線]を拝むと称して、一村の女性又は男性を、互に拝しあふ儀式がある。併しゐきい神[#「ゐきい神」に傍線]を男子を以て代表させることは、女であつて陽神専属・陰神専属の神人があつたことの変化したものではあるまいか。でなくては、厳格にゐきい神[#「ゐきい神」に傍線]といはれるのは、根人だけでなければならぬ。事実、男の神人は極めて少数で、男逸女労といはれる国土でありながら、宗教上では、女が絶対の権利を持つてゐたのである。
前へ
次へ
全60ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング