しい。家の神の代表となつてゐるのは、火の神《カン》である。此亦、三個の石を以て象徴せられて、一列か鼎足形かに据ゑられてゐる。巫女の家や旧家には、おもな座敷に、片隅の故《ことさ》らに炉の形に拵へた漆喰塗りの場処に置く。普通の家では、竈の後の壁に、三本石を列べて、其頭に塩・米などの盛つてあるのを見かける。火の神の祭壇は、炉であつて、而も家全体を護るものと考へられてゐるのである。家があれば、火の神のない事はなく、どうかすれば、神社類似の建造物の主神が皆、火の神である様に見える。巫女の家なる祝女殿内《ノロドノチ》、一族の本家なる根所《ネドコロ》の殿《トオン》、拝所になつてゐる殿《トオン》、祭場ともいふべき神あしゃげ[#「神あしゃげ」に傍線]、皆火の神のない処はない。併し恐らくは、火の神の為に、建て物を構へたのは一つもなく、建て物あつて後に、火の神を祀る事になつたので、某々の家の宅《ヤカ》つ神、と考へて来たのに違ひない。
火の神と言ふ名は、高級巫女の住んでゐる神社類似の家、即、聞得大君御殿《チフイヂンオドン》・三平等《ミヒラ》の「大阿母《ウフアム》しられ」の殿内《トヌチ》では、お火鉢の御前《オマ
前へ 次へ
全60ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング