島をば、神の居る処として遥拝する。最有名なのは、島尻《シマジリ》に於ける久高《クダカ》島、国頭《クニガミ》に於ける今帰仁《ナキジン》のおとほし[#「おとほし」に傍線]であるが、此類は、数へきれない程ある。私は此形が、おとほし[#「おとほし」に傍線]の最古いものであらうと考へる。
多くの御嶽《オタケ》は、其意味で、天に対する遥拝所であつた。天に楽土を考へる事が第二次である事は「楽土」の条《クダ》りで述べよう。人をおとほし[#「おとほし」に傍線]するのには、今一つの別の原因が含まれて居る様である。古代に於ける遊離神霊の附著を信じた習慣が一転して、ある人格を透して神霊を拝すると言ふ考へを生んだ様である。近代に於て、巫女を拝する琉球の風習は、神々のものと考へたからでもなく、巫女に附著した神霊を拝むものでもなく、巫女を媒介として神を観じて居るものゝやうである。
琉球神道に於て、香炉が利用せられたのは、何時からの事かは知られない。けれども、香炉を以て神の存在を示すものと考へ出してからは、元来あつたおとほし[#「おとほし」に傍線]の信仰が、自在に行はれる様になつた。女の旅行者或は、他国に移住する者は
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