、必香炉を分けて携へて行く。而も、其香炉自体を拝むのでなく、香炉を通じて、郷家の神を遥拝するものと考へる事だけは、今に於ても明らかである。また、旅行者の為に香炉を据ゑて、其香炉を距てゝ、其人の霊魂を拝む事すらある。だから、村全体として、其移住以前の本郷の神を拝む為の御嶽拝所《オタケヲガン》を造る事も、不思議ではない。例へば、寄百姓で成立つて居る八重山の島では、小浜島から来た宮良《メイラ》の村の中に、小浜おほん[#「小浜おほん」に傍線]と称する、御嶽《オタケ》類似の拝所をおとほし[#「おとほし」に傍線]として居り、白保《スサブ》の村の中では、その本貫|波照間《ハテルマ》島を遥拝する為に、波照間おほん[#「波照間おほん」に傍線]を造つて居る。更に近くは、四箇《しか》の内に移住して来た与那国《ヨナクニ》島の出稼人は、小さな与那国おほん[#「与那国おほん」に傍線]を設けて居る。
此様におとほし[#「おとほし」に傍線]の思想が、様々な信仰様式を生み出したと共に、在来の他の信仰と結合して、別種の様式を作り出して居る所もあるが、畢竟、次に言はうとする楽土を近い海上の島とした所から出て、信仰組織が大き
前へ 次へ
全60ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング