たものと見える。雨乞ひに火を焚き、正月の十五日或は盂蘭盆に柱松を燃し、今は送り火として面影を止めてゐる西京の左右大文字《サイウダイモジ》・船岡の船・愛宕の鳥居火《トリヰビ》も、等しく幽冥界の注視を惹くといふ点に、高く明《アカ》くと二様の工夫を用ゐてゐる訣である。盆に真言宗の寺々で、吹き流しの白旗を喬木の梢に立てゝゐるのは、今日でも屡見るところである。

     二 標山

此柱松や旗の源流に溯つて行くと、其処にあり/\と、古《イニシヘ》の大嘗会にひき出された標山《シメヤマ》の姿が見えて来る。天子登極の式には、必北野、荒見川の斎場から標山といふものを内裏まで牽いて来たので、其語原を探つて見れば、神々の天降《アモ》りについて考へ得る処がある。標山とは、神の標《シ》めた山といふ意である。神々が高天原から地上に降つて、占領した根拠地なのである。
標山には、必松なり杉なり真木《マキ》なりの、一本優れて高い木があつて、其が神の降臨の目標となる訣である。此を形式化したものが、大嘗会に用ゐられる訣で、一先づ天つ神を標山に招き寄せて、其標山のまゝを内裏の祭場まで御連れ申すのである。今日の方々の祭りに出
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