傍線]とは髯籠《ヒゲコ》である。今日菓物類の贈答に用ゐる籠の、竹の長く編み余したものが本である。だいがく[#「だいがく」に傍線]の簡単なものには、ひげこ[#「ひげこ」に傍線]は轂《コシキ》から八方に幾本となく放射した御祖師花《オソシバナ》(東京のふぢばな[#「ふぢばな」に傍線])の飾りをつけてゐるものもある。今のだいがく[#「だいがく」に傍線]は紙花を棄て、輪をとりつけ、天幕を吊りかけて、名ばかり昔ながらの髯籠と称へて居るのである。紀州|粉河《コカハ》の祭りに牽き出す山車の柱の先には、偉大な髯籠をとりつける。東京の祭りに担ぎ出す万度燈《マンドウ》は、御祖師花の類を繖状に放射させてゐる。本門寺会式の万度燈には、雪の山の動き出すかとばかり、御祖師花を垂れたものを見る。
木津の故老たちが、ひげこ[#「ひげこ」に傍線]は日の子の意で、日の神の姿を写したものだと伝へてゐるのは、単に民間語原説として、軽々に看過すべきものではない。其語原の当否はともかくも、語原的説明を仮つて復活した前代生活の記憶には、大きな意味を認めねばならぬ。籠は即、太陽神を象《カタド》り、髯は後光を象徴したものといふ次第なので
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