式に用ゐられた伝来の歌詞及び、民間から採用せられた詞曲は、すべて此にこもる。

     二 万葉集の大歌

記・紀に見えた大歌――歌・振《フリ》をこめて――と、万葉の一・二に残つた宮廷詩との差異は、下の二つである。彼は、呪詞・叙事詩――物語――から游離又は、脱落したものが、其母胎なる詞章の裏書きによつて呪力を持つてゐ、此は、其原曲から独立した様式といふ意識の上に立つてゐる事である。伝来の大歌の改作・替へ歌でなくとも、威力は自由に詞章の上に寓るものと考へた事である。尤、古物語を背景に持つたものもあるが、尠くとも其を引き放して考へることが出来たのである。
仁徳朝・雄略朝などの伝説ある歌も載せてゐるが、大体に於て、飛鳥末、即《すなはち》舒明・皇極朝頃からの記録である。此時代は、大歌の転機であつた。日本紀や万葉自身を見ても、宮廷詞人――秦大蔵造万里・野中川原史満・間人連老――らしいものが出かけてゐる。代作詞人の作物が宮廷詩として行はれたものゝ記録を採用したらしい。而も、一・二を通じて、其序と歌との間に、半数以上境遇・地理・時代・作者の矛盾や錯誤を指摘出来る。後世の書き留めな事は明らかだ。が、
前へ 次へ
全67ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング