法では、鵠《クヾヒ》が用ゐられた。蘇我氏の雁によるのと相対してゐる。国造の代替りに、二年続けて「神賀詞《カムヨゴト》」奏上の為に参朝した。其貢物は皆国造家の「ことほぎ」料《シロ》であるが、其中、白鵠《シラトリ》の生御調《イケミツギ》は、殊に重要な呪物であつた。鵠の「玩び物」と称へてゐる。此は、鵠に内在する威霊を、聖躬に斎《イハ》ひこめようとするので、其を日常眺めて魂の発散を圧へようと言ふのである。鵠の白鳥も次第に他の白羽の鳥を代用する様になつて来た。鷺などが、其である。
雁がね[#「雁がね」に傍点]・たづ[#「たづ」に傍点]――鵠・鶴・鴻に通じた名――がね[#「がね」に傍点]と特別に、其|鳴《ネ》を注意したのは、其高行く音に聴き入つた処から出たのである。鳴く音の鳥として遂には、之鳴《ガネ》と言ふを接尾語風に扱うて、たづ[#「たづ」に傍点]や雁その物を表す様になつたのであらう。島の宮の水鳥も、古義の玩び物としての用途と漢風の林池の修飾とする文化模倣とが調和して、原義は忘れて行つたものである。其で、歌の上もやはり、さうした時代的合理化が這入つて来て「念ふ鳥」だの遺愛の「放ち鳥」などゝ言ふ風
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