我が枕のある床の様子が、目に浮んで思ひ去りにくい。かう言ふ時は、凶事があるものだと、舟行を恐れてゐるのである。
魂はやす行事
東国では、旅行者の魂を木の枝にとり迎へて祀る風があつたらしい。此も妹《いも》のする事だつたらしい。此をはやし[#「はやし」に傍線]と言ふ。
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あらたまの塞側《キベ》のはやしに、汝《ナ》を立てゝ、行きかつましゞ。いもを さきだたね(巻十四)
上[#(ツ)]毛野さぬ[#「さぬ」に傍点]のくゝたち折りはやし、我は待たむゑ。言《コト》し来《コ》ずとも(巻十四)
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きべ[#「きべ」に傍線]は、村の外囲ひの柵塁の類である。あらたま[#「あらたま」に傍線]は枕詞。遠江|麁玉《あらたま》郡辺で流行した為に、地名を枕詞にして「き」を起したのだ。きべ[#「きべ」に傍線]は地名説はわるい。村境で、魂はやし[#「魂はやし」に傍線]の式を行ふのである。木を伐つて、此に魂を移すからはやし[#「はやし」に傍線]である。処が、此はやす[#「はやす」に傍線]には、分霊を殖《フヤ》し、分裂させる義があるのだ。「旅出の別れの式に、妹よ。
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