が日本の国家組織が、次第に進んで来ると、村々は大抵、日本の国家に合せられる。国家の支配下となつた村は存続するが、国家に反抗した村は潰れる。即、社会的の階段が破壊する。其故、かう言ふ文章を伝誦してゐた一種の職業者が、此職業を失つた。同時に一の国家のもとに支配される様になり、村々の交通が自由になつた為に放浪する人々が出来た。即、所謂《いはゆる》「乞食者《ホカヒビト》」と言ふ職業人が現れた。自分等の村々に語り伝へられた歌なり、物語をもつて、諸国を流浪して歩く宗教家が出来たのである。此は、神事の叙事詩を歌ひ唱へて歩くのだ。かうして叙事詩を語り伝へる人々は、語部と称せられた。
村々の語部・国々の語部は、其村なり国なりの頭になつて居る家の、歴史を語り伝へて居る者である。其は、日本の国家の最上である宮廷の語部である者もあり、村々の頭であつた人々の家に置かれて居る語部もあつた。此中のある者は、村や家の破壊するとゝもに、ほかひ人[#「ほかひ人」に傍線]となつて、呪言や物語を語つて歩いた。宮廷に於ては、国家の歴史として考へられたものを、曲節を附して語り伝へ、其を国なり宮廷なりの大事な儀式の場合に語つた。こ
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