万葉集の解題
折口信夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)訣《わけ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しきたり[#「しきたり」に傍線]

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)山部[#(ノ)]赤人

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)みつ/\し
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     一

まづ万葉集の歌が如何にしてあらはれて来たか、更に日本の歌がどういふ処から生れて来たか、といふこと即、万葉集に到る日本の歌の文学史を述べ、万葉集の書物の歴史を述べたいと思ふ。
すべて文学は、文明の世になると、芸術的衝動から作られるものであるが、昔はさうした欲望がなかつた。だから、其時代に、如何にして歌が出来たかをまづ考へねばならぬ。
日本に歌の出来た始めは、文学の目的の為に生れたものではない。すぐに人が考へる事は、歌は男女牽引の具として生れて来たと考へ易いことであるが、其は大きな間違ひで、鳥が高声をはりあげたりするのとは違ふ。なる程、此要求はあるには違ひないが、此説の全部を其原因に採ることは、あまりに幼稚な見方である。文学があ
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