来た口頭の文章が、古い語《ことば》で言ふと寿詞《ヨゴト》である。寿詞といふのは、只今の祝詞《ノリト》の本の形である。祝詞は、只今では変つた形をして居るが、もとは、土地の精霊に言ひ聞せることば[#「ことば」に傍線]であつた。更に溯ると、神自身の自叙伝であつた。祝詞の古いものゝ中には、神の自叙伝の様な処もあり、神が、相手の欠点を知つて居ると言ふ様な事も見せて居る処がある。是が寿詞である。
此崩れた形が、万葉集にある。そこには延喜式の祝詞のものよりも、古い形が遺つて居る。つまり寿詞の中に、神の自叙伝、相手の来歴を述べるものがあるので、其が其まゝ展びて叙事詩となつた。――此は、平安朝頃の物語よりも更に古い物語であつて、今の語で言へば、叙事詩である。かうして歴史を語る、尠くとも事実あつたといふ、歴史を語り伝へるものが、寿詞より分れて来る。処が、祝詞の様に、正式な堂々たるものにならず、短いものになつて了うた。即、肝腎の処のみ遺つて、他の部分は捨てたと言ふ如きものがある。此を呪言と言ふ。
即、長い文章の中から、短い部分が脱落して来る。此俤は多少とも、万葉集の中に留めてゐる。
三
ところ
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