者と、人との問答になる。そして、神になつてゐる人と、其を接待する村々の処女たちとの間の問答になる。其問ひなり答へなりを古い語で片歌と言はれて居る。片歌が二つ並んで一首をなしてゐるのは、皆問答の形である。
記・紀の日本武尊が、東《あづま》の国を越えて、甲斐に出られた時、
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新治《ニヒハリ》 筑波を過ぎて、幾度か寝つる
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火焼《ホタキ》の翁が、此に和して歌つて居る
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屈《カヽ》なへて、夜には九夜。日には十日を(古事記中巻)
五 七 七
五 七 七
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此は対立した歌である。
片歌は、離す事は出来ないが、後には、片歌だけのがある。両方を、一人で詠むと言ふ事が出来て来る。此は、もう旋頭歌である。旋頭歌は、厳重に五七七で切れてゐる。旋頭歌はつまり、二人のかけ合ひ[#「かけ合ひ」に傍線]の形をば、一人で言ふ形になつたものである。
又、歌垣と言ふ事がある。片歌の問答が発達したのは、神に仮装した男と、神に仕へる処女、即其時だけ処女として神に接する女とが、神の場《ニハ》で式を行ふ。即、両方に分れて、かけ合ひ[#「か
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