が簡単に相手に物を言ひかけると、此に対して返答の語があらはれて来た。私は、只今のところ、此は、寿詞より発生が後れて居ると思うて居る。普通の考へ方では、簡単な形が先に発生して、複雑なものが後に発生するとして居る。併し此は、物の変化を考察するに、誤つた考へ方である。先づ、複雑なものが先に発生するものである。自然は、複雑より単純へ、単純より又複雑へ進む事が順序である。
託宣の一分流として「名告《ナノ》り」が出た。即、相手の精霊に物を言はせる。草木が、物を言はない時代が続いたが、遠い処から来た神の力で、物を言ふ様になつた。「言とはぬ草木」「言とひし岩根」などの語が、遺つて居るのは、其だ。相手が物を言はぬので、無理やりに、物を言はしむれば勝つのである。其は、極簡単な形で、其答へはたゞ、一言である。近年まで農家に遺つてゐた行事に、節分の夜、なり物の木を「成るか成らぬか。成らぬと伐つてしまふぞ」と脅して廻ると、一人が陰《かく》れて居て「なります/\」と答へる。物を言はしめると、言はしめた神が勝つのである。こゝに、日本歌謡の上に、問答の形が現れて来る。
五
神と精霊との問答が、神に扮する
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