表したものと言ふ事も出来さうである。
さうした立ち場から、部分の類似をつきつめて行けば行く程、事実から遠のく。唯、円満に発達しきらぬ智慧の失策を見せたものとだけは、見ることが出来る。さうして此話が、おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の智慧の発達に、ある暗示を持つてゐるものと見てもよさゝうである。
       仁の意味
白兎の話が示した人道風な愛は、残虐であり、猾智である所の倭なす神[#「倭なす神」に傍線]には、不似合ひの様に見える。併し、外に対しての鋭い智者は、同時に、内に向けての仁人であつたはずである。尠くも、さうあるのを望んだ事は、ほんとうであるはずだ。残虐な楽しみを喜ぶ事を知つた昔びとにして見れば、それの存分に出来る権能は、えらばれた唯一人に限つて許される資格と考へた事であらう。智慧・仁慈・残虐は、ぱらどっくす[#「ぱらどっくす」に傍線]ではなく、倭成す神の三徳と見る事も出来るのである。
泊瀬天皇ぐらゐ、純粋な感情のまゝにふるまうた人はなかつた。瞬時も固定せぬ愛と憎み、神獣一如の姿である。此点から見れば、おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]は、著しく筆録時代の理想にひ
前へ 次へ
全23ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング