#「をたけび」に傍線]を挙げて死んで行つた。
かういふ世であつたればこそ、おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]は死なゝかつたのである。其復活は信仰の俤を十分に伝へたと同時に、又切なる欲求を示したものでなければならぬ。
此点だけは、当時の人に或は単なる理想として、持たれて居つたに過ぎないかも知れぬ。が、近世に到るまでよみがへる人[#「よみがへる人」に傍線]の噂を、屡《しばしば》伝へる処から見れば、必しもやまとなす神[#「やまとなす神」に傍線]でなくては達せられぬ境涯とも考へきらなかつたであらう。
       智慧の美徳
純良なおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]は、欺かれつゝ次第に智慧の光りを現して来た。此智慧こそは、やまとなす神[#「やまとなす神」に傍線]の唯一のやたがらす[#「やたがらす」に傍線]であつた。愚かなる道徳家が、賢い不徳者にうち負けて、市が栄えた譚は、東西に通じて古い諷諭・教訓の型であつた。ほをり[#「ほをり」に傍線]・神武・やまとたける[#「やまとたける」に傍線]・泊瀬天皇など皆、此美徳を持つて成功した。道徳一方から見るのでなければ、智慧と悪徳とは決して、隣り
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