む人々の残つてゐる今の間に蒐めておきたい。
○もろに[#「もろに」に傍線] 東京でも、今は諸国の人々の寄り合ひになつて了うた為、大抵の国々の語の包括を遂げた様に見える。其でも、下町の年よりの早口の会話を聞くと、かなり意の通ぜぬ語に出くはす。今の間に、小説家などが、もつと書きとめて置いてくれゝばと思ふ。もろに[#「もろに」に傍線]など言ふ副詞は、実の処、私にはまだ、的確に意義が掴まれぬ。初めは「両《モロ》に」で、両手でさしあげたりする意の、相撲とりの仲間からとり入られたものと考へて、其まはし[#「まはし」に傍線]を両手《モロテ》でひいて、軽々とさしあげる意から、軽々と・たやすくなど言ふ意が、胚胎せられて来たものと思うた。
処が、事実はすつかり違ふ様である。もろに[#「もろに」に傍線]は「脆く」と一つで、上方のぼろくそ[#「ぼろくそ」に傍線]・ぼろい[#「ぼろい」に傍線]など言ふ語と密接な関係があつたのである。其について思ひ起すのは、友人永瀬七三郎君が、北河内|三《サン》个|江《エ》の口《クチ》(野崎の近辺)に住んだ頃、こもろい[#「こもろい」に傍線]と言ふ形容詞をよく耳にした。だから、大
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