江戸語では副詞の語根を強くする為に、三音・四音になるのを避けようとしてゐる傾きが見える。「右の腕がぶら[#「ぶら」に傍線]になつた」「ぽか[#「ぽか」に傍線]とぶつ」「仰(あお)に倒れた」など言ふ類で、もろに[#「もろに」に傍線]が、脆くも[#「脆くも」に傍線]に、一縷の関係を繋いでゐるのである。
○女の家 節供《セツク》は和漢土俗習合して出来たものと考へる。そして季節の替り目を恐れる風、及び祭り・物忌みに、男は皆宮社に籠り、女ばかりが家にゐて謹んで籠つたことがあるであらう。此は古いことだが、万葉集巻十四に、
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誰ぞ。此家の戸《ト》押《オソ》ぶる。新嘗《ニフナミ》に我が夫《セ》をやりて、斎《イハ》ふ此戸を
鳰鳥《ニホドリ》の葛飾早稲《カツシカワセ》を新嘗《ニヘ》すとも、その愛《カナ》しきを、外に立てめやも
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とある。近世まで、かういふ風に男女別居して、物忌みする風は、必、あつたであらう。西[#(ノ)]宮の居籠《ヰゴモ》りなども、宮籠りに対した語で、祭りに宮に籠つた風のなごりを逆に見せてゐるのである。それで恐ろしい季節の替り目を別つ節供の日に
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