お―の―かんけ[#「ぢぞお―の―かんけ」に傍線]・かたくま[#「かたくま」に傍線]・ちゝくま[#「ちゝくま」に傍線] 負ひ方擁き方の名を蒐めたい。大阪辺では、子供を脊負ひ帯で負ふのをぜんじやくにおう[#「ぜんじやくにおう」に傍線]と言ふ。たまにはれんじやく[#「れんじやく」に傍線]と言ふ人もあるから、連尺に見立てたのだ、と言ふことは疑ひもない。但此場合、胸の方はやはり、帯が十文字に交叉してゐる。後向けに負うて、脊と脊との合うてゐるのをぢぞおのかんけ[#「ぢぞおのかんけ」に傍線](け、清音)と言ふ。地蔵の勧化なることは明らかである。「地蔵のかんけ[#「かんけ」に傍線](くわん[#「くわん」に傍線]とは言はぬ)」と節をつけて、子どもどうし負うて、遊んだことを覚えてゐる。肩車をかたくま[#「かたくま」に傍線]と言ふ事は、手習鑑以来変らぬが、多くはちゝくま[#「ちゝくま」に傍線]と言ふ。
○たしむ[#「たしむ」に傍線]・たしなむ[#「たしなむ」に傍線] たしむ[#「たしむ」に傍線]とたしなむ[#「たしなむ」に傍線]とは、如何にも関係の深かりさうな語である。蕪村の「蓼の穂をま壺に蔵す法師かな」が、一書には、たしむ[#「たしむ」に傍線]となつてゐた筈である。夜半翁も必、たしむ[#「たしむ」に傍線]と蔵すとの間に、関係ある事を認めてゐたに違ひない。紀州日高では、物を貯へたり、用意したり、一部分残しておくと言ふ風な用語例に、たしなむ[#「たしなむ」に傍線]を使うてゐる。女のたしなみ[#「たしなみ」に傍線]など言ふのは、用意・心掛けなど言ふ意が、姿・形の上にも転用せられたので「芸事について、何のたしなみ[#「たしなみ」に傍線]がある」など言ふ事もある。思ふに「嗜」と言ふ字にくつゝいて残つてゐる、たしむ[#「たしむ」に傍線]と言ふ語の意味は、酒呑みが塩辛でも舐める様に、ちび/\玩味することを言ふのではなからうか。たし[#「たし」に傍線]と言ふ語根は、な[#「な」に傍線]と言ふ体言副詞語尾の有無に係らず、動詞語尾む[#「む」に傍線]に続いたので、たしむ[#「たしむ」に傍線]・たしなむ[#「たしなむ」に傍線]同じ語と言ふことが出来る。此語根たし[#「たし」に傍線]は可なり古いもので「確《タシ》か」系統のたし[#「たし」に傍線]とは、別に展びて来たものらしい。今も、京阪にも東京にも言ふ、少量で、使ふにも気のへる様な程度なのを、たしない[#「たしない」に傍線]と言ふのは「足しない」ではなくて、物惜しみする意のたし[#「たし」に傍線]の古意を存してゐるのであらうか。尚人をたしなめる[#「たしなめる」に傍線]など言ふ場合は、心掛け足らぬを叱つて、注意を喚び起す意とも思はれるが、どうやら、はしたなむ[#「はしたなむ」に傍線]の略転らしく考へられる。
○おいによ[#「おいによ」に傍線] 大阪では、夫より妻が年がさな場合に、其の妻をおいによ[#「おいによ」に傍線]と言ふ。又さうした夫婦関係をも言ふ様で「向《ムコ》のうちは――や」などゝも使ひます。おいによおぼお[#「おいによおぼお」に傍線](老い女房)の略語なる事は勿論です。おい[#「おい」に傍線](連用)おゝ[#「おゝ」に傍線](終止)の二つの活用は見られます。連用はて[#「て」に傍線]に接して、おゝて[#「おゝて」に傍線]・おゝた[#「おゝた」に傍線]などゝなります。おい[#「おい」に傍線]・おゝ[#「おゝ」に傍線]は勿論老ゆ[#「老ゆ」に傍線]なのですが、単に老年を現すことはなく、齢を比較して、誰は誰よりもおゝてる[#「おゝてる」に傍線]と言ふのが、此語の普通の用例です。又、さう言ふ夫婦を、嘲笑の気味合ひで、だんじり[#「だんじり」に傍線]と呼んでゐます。あの地では、地車《ダンジリ》を囃すのに「おゝた/\」と言ふ語で、煽り立てゝ、地車を進めるのです。「追へ/\」「追うたり/\」などゝ同じ用語例です。だから、おゝた[#「おゝた」に傍線](老うてる)と言ふから、だんじり[#「だんじり」に傍線]を聯想したのです。此語は、二つともに、四十以上の人の外には使ひません。
○もろに[#「もろに」に傍線] もろに[#「もろに」に傍線]と言ふ語、前にあゝは言うたものゝ、尚、不安な処があるので、いろんな人に問うて見た。清水組にゐる鈴木は、やはり「諸《モロ》に」の義で、全体の意とし、その使うてゐる為事為《シゴトシ》が、最近に「足場がもろに[#「もろに」に傍線]倒れるといかぬ」と言うたと教へてくれ、村田春雄君は「電柱がもろに[#「もろに」に傍線]倒れて来た」との例を寄せられた。山中共古先生の御相談願ふと、鈴木と同じく「諸・両」説で、恐らく、大工仲間の術語だらうと言はれた。此頃の色物席は恐ろしく不純で、お上品になつた為に、自在な東京下
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