連れてこそ 千早ぶる賀茂の川波立ち渡りつれ(古今六帖)
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の「行き連れ」は、行きずりの物見人が、偶然一つの方角へ行く、と解かれさうであるが、共同の幸福を願ふ人々の行く様と見るのが、時代の古いだけに、適当な様に思はれる。
大嘗祭の儀式に、八人の舞人がてん手《デ》に執つた阿礼木(貞観儀式)は、既《ハヤ》くとりもの[#「とりもの」に傍線]の枝を、直ちに然《シカ》呼ぶまで変つて居たのか、其ともまだ、此古い祭りには、古風なみあれ木[#「みあれ木」に傍線]が宮中に樹てられ、其木綿とり垂《シ》でた枝を折り用ゐたのか判然せぬ。賀茂或は松尾の阿礼ばかりが名高くなつたおとつ世の歴史家は、此を山祇系統の神の依代《ヨリシロ》と見るかも知れぬ。併しこゝにまだ一つ、宮中の阿礼がある。
二
正月十七日の射礼《ジヤライ》に、豊楽殿《ブラクデン》の庭上、射手《イテ》を呼び出す人の控へる座の南一丈の処に、其日、夜の引き明けから樹てられる二種の立て物がある。すべて今日からは想像に能はぬ事だらけではあるが、一つは烏羅(からすあみ[#「からすあみ」に傍線]又はとなみ[#「となみ」に傍線]と
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