、降参の素《シラ》幡がある。

     四

お互にせはしない世の中に生れ合せて、紙魚《シミ》の住みかにおち/\と、見ぬ代の祖々《オヤ/\》と話し交しても居られなくなつた。其為に、心の底から古なぢみの様な気のせぬ物は、夙かれ遅かれ何時かの昔に、海のあなたから渡つて来た迄、影も形も、此土にはなかつたもの、と早合点にきめられて来た。和順の心を示す白旗の如きも、人によつては、とてつもない新舶来《イマキ》の代物と考へてゐるかも知れぬ。併し此は寧、純朴な物忘れであつて、二三、学問を享楽する事を知つた、譬へば、名ある者とし言へば、巾着切りの生《シヤウ》国迄も、自分の里にひきつけねば措かぬ物識りたちに、鼻のさきであひしらはるべきものではない。
古く、白旗を樹てゝ和順・降伏の意を現した、と見える事実はある。周防の娑※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《サバ》の魁師|神夏磯媛《カムカシヒメ》は、天子の使ひ来ると知つて、磯津《シツ》山の賢木《サカキ》を根こじにし、上枝《ホツエ》に八握《ヤツカ》[#(ノ)]劔、中枝《ナカヅエ》に八咫《ヤタ》[#(ノ)]鏡、下枝《シ
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